会いに行く女(サオリ)
いつもより早く起きて、ポットを火にかける。
お湯が沸く間に顔を洗って、スキンケアは念入りに。
時間に追われてるいつもの朝は、オールインワンでぱぱっと済ませるのだけれど、今日はそんなことはしない。
化粧水を3回重ねてゆっくりプッシュ、美容液、乳液を塗ったあとに軽くマッサージ。
心なしかすっきりしたフェイスラインによしよし、と満足していると、お湯が沸いたので朝食にする。
お気に入りのスコーンとヨーグルト、そして昨日作った野菜たっぷりのスープをローテーブルに並べると、なんだか自分がオシャレな美人にでもなったようで少し嬉しかった。
朝食の片付けが済んだら身支度に取り掛かる。
お気に入りの(サオリは一軍と呼んでいる)化粧品を鏡の前に並べてしばらく眺めたサオリは思わずにっこりした。
普段会社に付けていく用には絶対しない、私の特別なコスメたち。
きらきらしていてなんて可愛いのだろう。
そっと乗せていくと、みるみるうちに肌が艶めき、健康で綺麗にみせてくれる。
寝てもとれなかった隈はコンシーラーで隠して、輪郭の気になる部分にはローライト、ついでに鼻筋にも少しだけ。
眉は細くなりすぎないようにアーチを描き、ブラウンピンクのアイシャドウをグラデーションで。
細めのアイライナーでアイラインを引き、目尻は少しだけはね上げると"イイ女"感が出て、とても好きだ。ビューラーでまつ毛を上げて、ボリュームマスカラを重ねると尚更。
アイシャドウに合わせてブラウン系のチークを薄く乗せて、リップはブラシで丁寧に。
いつもは人前に出られればいいやと、適当にしかしないけれど、こうやって時間をかけてじっくり作っていくとそれなりに見えるものだ、とサオリはしみじみ思った。
あとはストレートの髪を緩く巻いて、お気に入りのピアスと買ったばかりのワンピースを着ると、鏡に映るのは「綺麗めな化粧をほどこした、上品な女性」の姿。
時間を見るとちょうど出る時間。予定通りだ。
身長を綺麗に見せてくれる7cmのヒールを履いて、白いショルダーバッグを片手に家を出る。
足取り軽く歩いているとスマホが震えてメッセージの受信を知らせた。
『ごめん、10分くらい遅れそう』
ごめんね、と謝ってくるスタンプに大丈夫だよと返して待ち合わせ場所に向かう。
今日の私を見たら貴方は何て言うかしら。
貴方が嫌いと言った化粧を丁寧にして、
貴方が嫌だと言った巻き髪を結った、
今まででいちばん綺麗な私を見たら貴方は何て思うかしら。
やっぱり振らなければよかった、なんて思っても遅いんだから。
「振られた男に会いに行く女」